プログラムノート④-II ショパン/前奏曲15番 「雨だれ」
こんばんは。
リサイタルまであと2週間!
プログラムノートも残すところあと2回となりました。
今回は先週に引き続きショパンの楽曲、
彼の作品の中でもよく耳にする「雨だれ」について。
この曲は全24曲からなる前奏曲op.28に収録されています。ショパンが尊敬していたバッハの平均律クラヴィーア曲集から大きな影響を受けたと言われており、平均律における24の全ての調性を用いて書かれています。
その曲集の中の第15番である雨だれ。
タイトルはショパン本人が命名したわけではありません。
この曲集を手掛けていた時、ショパンは恋人である女流作家のジョルジュ・サンドと地中海に浮かぶマヨルカ島に居ました。10月末、長雨が降り続けるある大嵐の日、もともと病弱であるショパンはお買い物に出かけた彼女の帰りを冷たい部屋で独り待ちます。自分に襲いかかる死の恐怖と孤独を抱えながら…。
"雨だれ"という題名はそんなショパンがピアノを弾いている音と、軒下からしたたり落ちる雨音とが微妙に調和していた、とサンドが書き記していることから生まれた通称…という説もあります。
そして、この曲の素晴らしいトリックは、
ABAという三部形式で成り立つ曲中で鳴り響く雨音が同じ音なのです。A部は、柔らかい陽の光が差し込む穏やかな雰囲気に対し、B部は死の淵で絶望に苛まれるショパンの悲痛な想いが聴こえてくるようです。この相対する2つのパートで鳴り響く雨の音は全く同じ音。ショパンの楽譜にはAからBに入る導入部分を何度も書き直した跡があるので、彼自身も悩みながらもがきながら書いたのではないでしょうか。
さて、次回はついに最終回!
プログラムノート④-I ショパン/ノクターン 遺作 嬰ハ短調
こんばんは。
11月も残りわずかとなり、
リサイタルの本番が近づいてまいりました!
今日から3週に分けて、当日お届けするショパンの作品のついてブログを綴っていきたいと思います。
1830年ごろ(当時20歳前後)ショパンが作曲したこの曲を捧げた相手は大好きな姉のルドヴィカでした。
ルドヴィカがピアノ協奏曲第2番へ短調を練習する時のための曲として書かれた、という説があります。
確かにピアノ協奏曲第2番にはこの遺作との共通点が所々に見られるのですが、このノクターンを練習用に使う…? 調も違い、歌い回しも違うので、果たして本当に練習用として献呈されたかは定かではありません。
もともとノクターンとして書かれた曲ではなく、
ルドヴィカがショパンの死後、彼の未出版作品のカタログを作った際に「夜想曲(ノクターン)風のレント(Lento w rodzaju Nokturna)」と記したことから、ノクターンに分類されることになりました。
1830年、ショパンがこのノクターンを作曲したウィーンに到着したのは11月。
彼の故郷ワルシャワでは11月29日に、一部の士官候補生達がロシアの支配に反抗し、コンスタンチン大公を暗殺しようとする事件が起こります。
それをきっかけに両国は緊張状態に入り、ポーランドとロシアの間で本格的に戦争が起こる気配が漂い始めました。
大好きな故郷にいる愛すべき家族、友人達がいったいどんな危険にさらされてしまうのか…
不安に駆られ、祖国の平和を想い、家族の安否を願い…。
そんな中で書かれたこのノクターン。
同時期に作曲された歌曲《願い》の中にある一節に
…もしも私がこの木立の小鳥なら、
他のどんな場所でも歌わないわ、
湖のためでも、森のためでもなく、
だけどいつまでも永遠に、
貴方の窓辺で、ただ貴方のためだけに……
と、あります。
小鳥になってすぐ家族の元へ飛んでいき、
自身が作曲した美しい音楽を届けたい、と想っていたのではないでしょうか。
このノクターンは胸を切るような物悲しいメロディーを切々と歌い続けますが、最後は明るい和音で終わります。
祖国と家族への愛。
どんな悲しみにくれようともその二つへの想いは変わらず心にいつも持ち続けていたのかもしれません。
プログラムノート③-プロコフィエフ/ピアノソナタ第3番
こんばんは!
近所の銀杏並木もすっかり黄色に染まり、日増しに寒さが身にしみるようになりました。みなさん、いかがお過ごしでしようか。
第3回目のプログラムノートは、
私が個人的に好きな作曲家の1人です。
ロシア帝国時代のウクライナ出身のプロコフィエフはピアニストであった母から手ほどきを受け、5歳で作曲をはじめ、10歳で交響曲を書いてしまう天才児。
1904年13歳でロシアの名門、サンクトペテルブルク音楽院に入学しますが、彼にとって音楽院の授業は退屈なものばかり。しかし音楽院で優秀な仲間たちに恵まれ、たくさんの刺激を受け、彼の作曲に大きな影響を与えることとなります。
1907年にこのピアノソナタ第3番は練習で書かれました。
ん?
ということは、
16歳で書いたということ…ですよね?
10年後に改作したとはいえ、
本人曰く
『展開部と再現部はちょっと変えたけど、
全体像はそんな変えてないよ〜』とのこと。
恐るべし。
ちなみに展開部はハンバーガーでいうところの具のところ。再現部は下のバンズ、上のバンズは提示部といったところでしょうか。
エネルギッシュなオープニングで始まり、
そこから止まる事なく音楽が流れていくこのソナタ。
プロコらしい打楽器的なピアノの使い方や、
和声、音の並び(まあ暗譜が難しい!)、
リズムで成る第一主題(上のバンズ①)に対し、
どこか切なく、懐かしい第2主題(上のバンズ②)が
左の半音の伴奏で支えられながら美しく歌います。
このソナタはイ短調(ラから始まる暗い調)とされていますが、中身を覗くとたくさんの調で溢れています。そもそも曲の一番最初の和音はホ長調(ミから始まる明るい調)です。
ハイドン同様、
ですが、一番聞くとハマってしまう彼の音楽。
ロミオとジュリエット、シンデレラなどの
バレエのロマンティックな曲もたくさん書いています。
ぜひ一度チェックしてみて下さい!
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田坂麻木 帰国記念リサイタル
2017年12月9日(土)
18時30分開演(18時開場)
古賀政男音楽博物館内けやきホール
チケットはこちらから:http://bit.ly/2euA7Gg
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プログラムノート②ードビュッシー/ベルガマスク組曲
みなさん、こんにちは!
三連休は秋晴れが続き、
とても気持ちが良かったですね!
さてプログラムノート第二回目は、
みなさんご存じ「月の光」が集録されている
ドビュッシー(1862-1918)作曲
ベルガマスク組曲です。
4つの小品からなるこの組曲は
1890年ごろに着手され、
その15年後の1905年に
改訂版が出版されました。
長い年月の間 何度も改訂が施され、
集録する曲を変更してみたり、
はたまた
『続・ベルガマスク組曲』を創ろうとしてみたり、
試行錯誤の末に次の4曲に落ち着きました。
第1曲目: プレリュード
組曲の顔になる初めの曲、
前奏曲(プレリュード)。
世界が開けたような
明るいオープニングで始まります。
中間部で、
異空間のようなもの悲しさが訪れるのですが、
そこでは教会旋法が使われています。
17世紀頃のヨーロッパでは
それ以前の長―――――い音楽の歴史の中で、
教会音楽に用いられてきた旋法の事を
教会旋法と呼びます。
留学1年目に勉強していたこともあって、
この広い音域を使った自由なオープニングが
これからの留学生活に抱いている
沢山の夢や希望を音で表しているようで
当時の気持ちを思い出します!
第2曲目:メヌエット
「ズん・チャッ・チャッ」
という明確なリズムではなく、
なんだか揺れ動いているかのように聞こえる
この曲。
前述の教会旋法が巧みに使われ、
夜の薄暗さのような不気味さが少し伺えます。
最後にグリサンド
(鍵盤を指でトゥルルルと滑らせるアレです)で
フッと消えてしまうのですが、
この霧に溶けてしまうような終わりは、
次曲への繋がりなのでしょうか。。。
第3曲目:月の光
前の曲がラで終わるのに対し
こちらはラ♭で始まるのですが、
その半音のズレがなんだか幻想的で、
メヌエットからのバトンタッチが
美しく繋がれます。
実は
『感傷的な散歩道』
というタイトルが付けられていたのですが、
後に現在の題名に変更されました。
この曲はポール・ヴェルネールという詩人の
詩をもとに作曲されているといわれています。
・・・悲しく美しいあの月の光の静寂に
梢の鳥たちを夢に誘い
すらりとした大きな大理石の噴水を
うっとりすすり泣かせるあの月の光に
.....なんですか、
この儚く美しい言葉の羅列は!
また、ドビュッシーは恋多き人物だったようで、
18歳から不倫、浮気、二股、駆け落ち、
いろいろ経験しているのですが、
この曲もきっと
好きな女性に贈ったのではないでしょうか。
留学時代、
音楽院からの帰り道に
いつもお月様を探しながら
この曲を口ずさんでいました。
第4曲目:パスピエ
4曲の中でピアニストに一番人気のある
パスピエ(私の統計上ですが)。
ちなみに私の師匠も一番好きでした。
もともとはフランス古典舞曲である
パスピエの拍子は3拍子なのですが、
ドビュッシーはそれを4拍にアレンジして
作曲しています。
ひたすら八分音符(♪)が
曲を進めていく最後の最後に、
あっさり曲を終わらせてしまうドビュッシー。
くぅ〜、憎いですね!
休符を置くことで無音にし、
逆に『音』を意識させるあたりが、憎い!
個々のキャラクターが
しっかり味付けされているのですが、
4曲並んでもお互いが前後の曲を邪魔しないどころか
各々の性格をきっちり際立たせているこの組曲。
みなさん独自のストーリーと併せて、
当日楽しんでいただけたら幸いです!
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田坂麻木 Maki Tasaka
12月9日(土)18:30開演
帰国記念リサイタル in Tokyo
◎チケットはこちらから http://bit.ly/2euA7Gg
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プログラムノート①-ハイドン/ピアノソナタ Hob XVI/34 ホ短調-
みなさん、こんにちは。
ご無沙汰しております。
お陰様で無事に6年間の留学生活を終え、
この秋日本に完全帰国致しました!
ヨーロッパで得た知識や経験を生かし、
これからは日本を拠点にリサイタルやレッスンだけでなく、
様々な形でクラシック音楽をよりたくさんの方々に
身近に感じて頂けるような活動をしていきたいと思っておりますので、
応援して頂けると嬉しいです!
その第一歩として、
12月9日(土)に帰国記念リサイタルを開催する運びとなりました。
それに伴い、当日お届けする曲目の解説や作曲家について、
こちらのブログで毎週末に更新していきたいと思います。
記念すべき第一回目は。。。
ハイドン!
ハイドンと聞き、あぁ。あの人!と思い浮かばなかった方が、
多くいらっしゃるかと思います。
ハイドンさん、あまり認知度は高くないですよね。
確かにテレビや映画などで取り扱われる数は断然少ないです。
ただ、このハイドン、古典派といわれる音楽におけるとても重要な流派の開祖さまのようなお方でして、同じくウィーンで活躍するモーツァルトやベートーヴェンは彼の影響を多大に受けているのです。
とても賢いお方でした。
ピアノソナタだけで62曲(!)、弦楽四重奏68曲(!!)、交響曲108曲(!!!)と、
77年の生涯でこれだけの曲数を生み出した作曲家はなかなかいません。
1つのフレーム(様式)の中で、
巧みに遊んで、工夫して、構築してある彼の作品。
ピアノのコンクールを受けると必ず課題曲に入っていて、
そのために練習することが多かったハイドン。
幼い頃ははあまり個人的に好きな作曲家ではなくて、
その当時は彼の賢さやユーモアがわからず、
古典派特有の”ピュアさ”がどうも苦手で、
先生には毎回怒られて、、、
その結果ハイドンを毛嫌いし、距離を置いてしまいました。
この人とは折りが合わない!と思い込んでいた私ですが、
どうやら神様は見ていたようで
苦手を克服するために、またハイドンに巡りあうことになりました。
その曲が、
今回お届けするプログラム最初の曲です。
いやぁ、長かったです、ここまで来るのに10年かかりました。
ハイドンも勝手に嫌われ、距離を置かれ、案外良い人じゃないの!なんて思われて。
かわいそうに。。
ハイドンを毛嫌いしていた私ですが、
初めてこのソナタの録音を聴いたときに、
なんだか素直に「この曲を弾きたい」と思ったのです。
このソナタは珍しく短調(暗い曲調)から始まり、それも6/8拍子という
第1楽章に用いらることが稀な拍子で始まります。
ホ短調で始まった1楽章を、平行調であるト長調が温かく2楽章で受け止めるのですが、
この2楽章がピュアofピュアで、無駄な音は一切ない。
大の苦手だった古典の純粋さも、
大人になると”なんて美しいのだろう!!”と思うのですから、
音楽はやっぱりおもしろいです。
前述の平行調とはコインの表と裏のようなもので、
同じ調合(#や♭)を持っていながらも始まりの音の位置を変えるだけで
あら不思議、性格違うんですね!、となる調の関係性のことです。
そして最終楽章ではまたホ短調に戻り、
一つのテーマをアレンジしながら展開していく変奏曲のような形で終わります。
10分もない演奏時間の中で、ころころ顔が変わるハイドンのソナタ。
これを機に
「あの子ってちょっと優等生っぽくない?きっと冗談とか通じないタイプ。」
なんて思わず、ハイドンの楽曲に少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです!
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田坂麻木 帰国記念リサイタル
2017年12月9日(土)
18時30分開演(18時開場)
古賀政男音楽博物館内けやきホール
チケットはこちらから:http://bit.ly/2euA7Gg
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