お腹の中のちょうちょ

ピアニスト田坂麻木の音楽と関係あったりなかったりな日々の記録

【Op.BLACK】前奏曲とバラード

今回はショパンが恋人ジョルジュと共に過ごしたマヨルカ島で、同時期に作曲された2曲についてご紹介します。


前奏曲 op.28

ショパン前奏曲op.28は、

①白鍵7つ(ドレミファソラシ)+黒鍵5つ=12種類

②それぞれの明るい調(長調)+暗い調(短調)

12+12=24曲の前奏曲がまとめられています。


元々は、バッハが同じく全調で書き上げた《平均律クラヴィーア曲集》の伝統に連なる作品を残すことが長年の願いであり、音楽家としての使命とも考えていました。

今回はその24曲の中から、私が好きな1曲を、Op.BLACKのプログラムにおける《ショパンの世界の入り口》として、第20番ハ短調をお届けしたいと思います。

和声の美しさに魅せられて、フェルッチョ・ブゾーニが「ショパン前奏曲第20番による変奏曲とフーガ」を、セルゲイ・ラフマニノフが「ショパンの主題による変奏曲」を作曲していますので、ぜひこちらも併せて聴いていただきたいです!

 

○バラード第2番 op.38 へ長調

ショパンは人生で4曲のバラードを作曲しました。元々は歌曲に使われていた《バラード》というジャンルをピアノに落とし込んだのは、ショパンが初めてでした。


今回お届けする2番は、正気と狂気、影と光、静と動、相反するものが衝突し合います。

へ長調(ファから始まる音階)という、穏やかな日曜日の昼下がりのような雰囲気を持つ調で音楽は紡がれていきます。

突如雷光のような激しい音が空から降ってきます。

弾いている方も聴いている方も心臓がドッと跳ねる思いをするので、予習に音源を聴かれる方はどうぞ音量に気をつけてください……!


このバラード2番には、救いの光が差し込む事がほとんどありません。

明るい調(長調)で始まり、最後は打ちひしがれたように悲しい調(短調)で終わりを告げます。

このバラードには何度も書き直した跡が残っており、ショパンの弟子やシューマンへ長調のまま終演するバージョンも耳にした事があったようです。

この曲が出版されるまで、何度も何度も推敲を重ね、熟考の末に今の終わり方をショパンが決めたことがわかります。


穏やかな昔話に想いを馳せても、突風や落雷に打ち消されてしまう…そんなやるせない現実的な黒の姿も、他の曲と共演させた時にどんな効果をもたらせるのか、私自身、当日の空間に響く音楽が今から楽しみです。